退屈な昼食を終えた後、ルーファウスはプレジデントに追い払われる前にあっさりと退散した。あれだけ好き勝手傍若無人に振舞えば充分だろう。
レストランの屋上から再びヘリでジュノン支社に戻ると、プレジデントはリーブを連れて社長室へと入っていった。なにやらネオ・ミッドガルについて話し合うことがあるようだ。(話し合うといっても、プレジデントの演説で終わるのだろうが…)
ツォンは社長護衛の任務があるから、セフィロスの午後はレノとルードでナントカしなくてはならない。
とはいっても、午後の予定は訓練所であるから、外部のファンやら見物客やらを相手にするよりはまだ整然と決められたルールがある分、精神的に楽だった。

ジュノン支社から繋がる地下には、一般兵及びソルジャーの訓練所がある。まずはソルジャー専用の訓練所に向かう。
護衛といっても、セフィロスの身の危険を心配するのは、愚の骨頂というもの。なにしろ護衛役のレノたちよりよっぽど強いのだから、いざとなったらレノやルードを押しのけて、一人で敵を倒していそうだ。
だからレノたちの仕事は、セフィロスが一日の予定をスムーズにこなせるよう準備をしたり、邪魔されないよう根回ししたり、余計なものを排除したりすることだ。それも、ジュノンの軍施設では心配することなど何も無い。
放っておいても兵士たちはセフィロスの邪魔をしようとはしない。むしろ進んで彼に協力するだろう。
楽といえば楽な午後だ。
レノとルードは、勝手知ったる様子で進むセフィロスの後ろから、ただついて行くだけだった。



「よぉ!セフィロス!」
訓練所の扉を開けた途端、中から明るい気さくな声が響いた。
「……ザックスか」
同じソルジャー1stの同僚なのだから、この訓練所にいても何の不思議もない。セフィロスは、駆け寄ってくる同僚ではあるが同時に後輩でもある男に冷静な視線を投げかける。
またレベルが上がったかもしれないな。

側に来たザックスは、セフィロスの背後に控えているタークスにも気付き、よっ!と軽く片手をあげ挨拶すると、英雄に向かってニッカリと笑って見せた。
「勝負、しようぜ?」
挑戦的に口の端を上げてみせる。
「この間、したばかりだったと思うが?」
その結果は、セフィロスの圧勝だった。それを思い出させるように、こちらもうっすらと笑ってみせるけれど、ザックスはちっとも応えていないようで、軽く肩を竦めて見せた。
「あれからまーた、レベルが上がったんだ。こないだみたいに、簡単にはやられないぜ?」
負けた事実を受け止めた上で、生意気にも勝負を吹っかけてくる態度には、嫌味がない。
それでも、今勝負すれば再度、十中八九セフィロスの圧勝に終わるだろうが、それが分かっても尚、勝負してみてもいいかもれない、と思わせる何かがザックスにはあった。
「…いいだろう」
挑戦を不敵に受け止め、セフィロスはマサムネを手に、訓練所の奥にある闘技場へと足を向けた。

「ソルジャー1st同士の手合わせだとよ、と」
「………あぁ」
「じゃ、オレたちの仕事は、観戦だな、と」
「……………あぁ」



結果はもちろんセフィロスの勝利に終わった。
「…ちぇー、手加減してこれかよ!」
傷だらけ血塗れのザックスが、面白くなさそうに口を尖らせて見せる。
「なんだ、手加減したのは分かったのか」
「それくらい、分かるだろッ!!」
こちらは傷一つないセフィロスがマサムネを拭いながら何気なく口にした言葉に、ザックスが火を噴く。

闘技場にはいつの間にか、かなりの数の兵士が集まり観戦していた。そして気がつけばレノとルードが観客の整理を行っている。
その中の一人と目が合ったザックスは、傷だらけの姿でニッカリと笑って手を振って見せた。
「よぉ、クラウド!来てたのか」
呼びかけられたのは、一般兵の制服を来た少年。突然声をかけられて少し驚いた様子だ。
「あ、そうだ!セフィロス!」
マサムネをしまったセフィロスがちらりとザックスへと目を向ける。
「こいつ!俺のトモダチ!クラウドってんだ。今は一般兵だけど、ソルジャーになりたいんだと。イイ線いってると俺は思うぜ」

クラウドと呼ばれた兵士は、笑って肩に腕を回してくるザックスとは正反対の空気の持ち主で。あまり社交的には見えなかったが、回されたザックスの手を嫌がるでもなく受け入れていた。
あえていうなら、不器用そうな少年、といったところか。
セフィロスの視線に背骨から指先まで緊張させているようだった。

特に目立つところもなく、まして他者に感銘を与えるようなものなど何一つ持っていない少年に思えた。セフィロスは呼吸をするようにスルリと興味を失った。
ザックスはまだあれやこれや少年に話しかけているようだったが、少年はセフィロスの無関心さに敏感に気付いたようだ。そっと静かに目を伏せた。




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