タークスの仕事はそれこそピンからキリまである。中には、くだらない、の一言でぶった切ってしまえそうなものだってあったりするのだ。

セフィロスが英雄と呼ばれ、その能力はもちろんだが、容姿までもが神羅の看板変わりに使われていたあの時代。
プレジデント神羅のあざといまでの英雄プロデュースにはウンザリしていたが、人々から注目され憧憬の眼差しを四六時中向けられることにセフィロスは大して抵抗を感じていなかった。
元から他人に無関心で、他者の意見などどうとも思わなかったからだが、自分程才能に恵まれた人物なら、注目されて当然という一種の驕りもあった。(そしてそれは事実でもあるから、如何ともしがたい…)
そんな英雄がジュノンを歩こうものなら、一般市民の注目の的なのは当然、熱狂的なファンからミーハーな子まで、一目セフィロスを見ようと、そしてチャンスさえあれば接近しようと、ワラワラと押しかけてくる。

タークスの仕事の一つに、要人の護衛というのがあるが、その延長線上で神羅最強を誇るソルジャーの護衛………とはいっても対テロではなく、一般人やファンの追っかけから英雄を守る任務がある。
基本的には、セフィロスの一日の予定を、本人の希望を元に作成し、その予定が恙無く実行されるようマネージする…そう、いわばセフィロスのマネージャーのようなものだ。
セフィロスのパブリックイメージを守るための情報操作を行うのも主な仕事の一つである。



「これが明日の予定だ。一通り目を通しておいてくれ。希望があれば聞くが」
外地から、ジュノンに帰還した英雄を、神羅支社の特別室に案内し、一息つく間もなく翌日の予定について話し合う。
とはいっても、セフィロスは戦闘に関してはともかく、ジュノンで過ごす通常の予定に、あれこれと要求をつけてくることは滅多にない。
時折、プレジデントが押し付けてくる過剰な『ファンサービス』を、面倒臭そうに回避しようとするくらいだ。

ツォンは予め作成していた予定表を、ガラステーブルの上に置いた。ソファにゆったりと寛いだ姿勢で腰掛けていたセフィロスは、それにちらりと視線を寄越しただけで、手にしようともせず、うっすらと僅かな皮肉を込めて笑った。
「…特にない。…あぁ、だが、あえて言うなら余計な報道はごめんだ」
「…昼の記者会見には出てもらうぞ。プレジデントも御一緒されるからな。その後の会食も変更は不可能だな。午後はソルジャーの訓練所に行ったついでに、一般兵の方にも顔を出してもらいたい」
「それは構わんさ」
「夕食だが、予定ではハイデッカー部長とジュノンの幹部での晩餐となっているが…」
「…欠席だ。今現在の戦闘方と今後の課題について、ソルジャー同士で話し合うため、夕食の予定が入っている……とでも言っておけ」
「…………分かった。夜はフリーだが……」
「今のところ外出の予定はない」
「では一度部屋に戻り、外出の際は連絡を」
「あぁ…」
面倒臭そうに頷いて、セフィロスはガラス窓から見える夜景に目を向けた。

ジュノン支社の上階に位置するこの部屋は、天井から床まで強化ガラスで覆われ、海が一望できるようになっている。他にビルもないから、外から見られることはない。
そのため一応設置されているブラインドを一日中開けっ放しにしていても、プライヴァシーは守られる。

広々とした部屋には、コンテンポラリーなガラステーブルと、黒革のソファー。足元には毛足の長いオフホワイトの敷物が敷かれてある。続き間はベッドルームでバスルームも設置されてある。
部屋の広さに対してあまり物がなく、空間がしっかりとられているこの特別室は、セフィロス専用のものだが、個人的な物はあまり置かれていない。
あえていうなら、シンプルなコンテンポラリーを中心に揃えられた家具や、オフホワイトと黒のコントラストでまとめられている辺りに、彼の個人的な趣向が見られるくらい か。
昼は真っ青な海と、差し込む光が明るく穏やかな空間を作るし、夜は真っ暗な海に所々人工的な光が浮かんでいるのが見え、それが淡いランプの灯りと合わさり、静かな空間を作り上げる。
ツォンは、テーブルの上の予定表に変更を加えながら思う。
セフィロスの部屋は、意外といったらなんだが、とても居心地のいいものだと。本人が意識してそうしたのか…おそらくそうだろう。この部屋はリラックスすることが出来る場所なのだ。
そのあまりの強さのせいか、どこか人間らしさに欠けると思うこともしょっちゅうだったが、この部屋を見る限り、少なくとも彼とて精神的な癒しを必要とするのだと、そう思える。そしてツォンはその事実になぜか安堵を覚えるのだ。

寛ぐセフィロスを残してツォンは部屋を出た。明日は忙しい一日になりそうだ。



翌朝、日が昇って早々、レノとルードはジュノン支社の周囲を歩く。
早朝のひんやりとした空気の中、レノは欠伸を噛み殺す。薄いピンクのシェードがかかったサングラスの下の目だけは鋭いまま。
ビルの玄関から少し離れた場所に数人の若い女の子たちを見かける。早朝の散歩を楽しむにしては、お洒落に気合が入りすぎている。間違いなくセフィロスのファンだろう。
普段なら軽く声をかけて手を振るくらいしそうなレノだったが、この時ばかりはウンザリと咽の奥でうなるだけだった。

「よぉ、ルード、そっちはどうだ?、と」
ビルの裏口を確認してきたルードは、レノ程露骨な態度は見せなかったが、軽く肩を竦めて頷いた。
「………10人程、確認した」
「………そうかよ、と」
視界の隅で、タークスの姿を見つけた少女たちが、俄かに色めき立つ。セフィロスが現れるとでも思ったのだろうか。朝っぱらにも関わらずこのテンション。今日一日が思いやられる。
サングラス越しなのに、朝日が目に染みた。


-BACK-
 
Make a Free Website with Yola.