老朽化した魔光炉の調査。軽い仕事だと思っていた。ただ、魔光炉のある山に厄介なモンスターが出るから、そこだけは注意しなければ。
作戦に参加した者は皆そう思っていただろう。

「なぁ、帰ったらまた勝負しようぜ!」
ザックスはニヤリと笑った。
「…その根拠のない自信はどこから来るんだ?」
珍しく、からかうように言うセフィロスに、ザックスはそれこそ太陽みたいに笑い飛ばした。

「俺はまだあんたには勝った事が無い。負けばかりさ。でも、任務をこなすごとに、訓練をするごとに、俺は強くなっていってる。これ以上弱くなることはない。だ・か・ら、次に戦ったら、俺が勝つかも知れないだろ。負け犬のまま尻尾垂れて背中向けるってのは性に合わなくてね」
「ほう…。覚悟だけはあるようだが」
「分かってるさ。あんただって日毎に強くなっている。でも、俺は諦めたくはない」
決意の程を、自分に言い聞かせるように、真っ青な空を見上げて笑って言い切ったザックスに、セフィロスは少し目を細めた。
「……いいだろう。ジュノンに戻ったらまた相手しよう」
静かに肯定した英雄に、ザックスはまた太陽みたいに笑った。
ニブルヘイムの空はとても高くて遠い。澄み渡った空気の向こう、漂う霧が時折山から下りてくる。

「もし、俺に故郷があるとしたら…それはこんな街かもしれないな…」
霧に覆われた山を見上げながらセフィロスが呟いた。
「…覚えてないのか?」
遠慮がちな問いかけに、曖昧な表情を浮かべると、セフィロスは思いを断ち切るようにザックスを見て、いつもと同じ様に少し皮肉を漂わせた笑みを向けた。

「お前の故郷はゴンガガだそうだな」
「ああ!ま、何もない本物の田舎だがな!」
だからミッドガルに出てきたのさ!と明るく笑う。
「故郷を捨てて、か?」
遠い空を見上げるようにして呟いたセフィロスに、ザックスは目を細める。
「捨てるってのとは違うな。確かに離れはするけど……」
どういう風に言葉にすればいいのか探すように、ザックスも空へと目を向けた。そこに答えがあるわけではないけれど。

「いつか帰る場所……だと思う」
それがザックスに言える精一杯だった。何もかもを誰かに説明するために言葉にして考えるわけじゃないから、気持ちを的確に表現できるとは限らない。
伝えたいと思う分だけ空回りしている。静かに空を見つめたまま自分の考えに浸ってしまった英雄にかける言葉を、ザックスは持っていなかった。



「セフィローーース!!!!」
魔光炉で剣を合わせたセフィロスは、すでにザックスが知っている英雄ではなかった。
故郷を知らず、帰る場所も知らないこどもは、闇雲に母を求める。
あれほど望んだ手加減なしの手合わせは、怒りと悲しみをぶつけるだけのもので、勝利も敗北も等しく虚しい。
跳ね飛ばされたザックスが感じたのは、いつものような負けたことに対する悔しさではなく、ただただ、哀しいだけだった。

「セフィロス!!あんたを尊敬していたのに……あこがれていたのにッッ!!」
クラウドの魔光を浴びた緑の瞳がセフィロスを見据える。
あの日、ろくに見もしなかった一般兵の少年の視線が、セフィロスに突き刺さる。
一瞬、身体が動かなくなり……。
セフィロスは、母と信じるモノの首を抱いて微笑んだ。

飛び込んだライフストリームの中に帰る場所があることを願い。決して手に入らぬ永遠の安らぎを求めて。
彼はヒトであることをやめた。


 
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